アスファルト舗装業務への点群活用
—若手への技術継承と美しい施工のために—

「——何としてでも点群を撮りたい。」

有限会社ミナミ様は愛知県稲沢市を拠点に道路のアスファルト舗装業務へ携わる企業だ。
「何としてでも点群を取りたい」と語るのは、同社の取締役である服部氏。
服部氏は大手舗装会社から独立し、有限会社ミナミを立ち上げた。

同氏がとにかく追求するのは「仕事の成果の美しさ」である。
求める仕事の成果を出すために、測量への3次元導入を始めた。
取り組み始めたのは約2年ほど前だが、その動きには速さがあり、フットワークも軽い。

これは一例だが、写真の青い枠内に注目して見ていただきたい。
敷かれたアスファルトに凹凸があるため、白線が少し歪んでいる部分があるのが分かるだろう。
他にも、歩道がある道路の施工時に、歩道と道路の境目部分である「へり」にムラがあると、それもまたアスファルトの凹凸に関係する。
職人たちはへりを基準にアスファルトを敷く。つまり、そのへりの高さのムラに合わせてアスファルトの高さもまた決定されるのだ。

つまり、施工結果を美しく仕上げるためには、アスファルトを凹凸なく滑らかに敷いていくことが不可欠である。 そこで服部氏は点群をアスファルト舗装に取り入れることを決断した。

青い枠の内側を見ると、凹凸があることがわかる。

敷きたてのアスファルトとレーザースキャナ

服部氏はもともとライカ社製3DレーザースキャナBLK360ユーザーである。
しかし、アスファルト舗装工事でのBLK360活用に疑問を抱いた。
事務所に帰ってデータを確認した際に、黒色の部分—つまり新設のアスファルトがうまく撮れていないことがあったからだという。

測量技術は多様化してきているが、それぞれの技術には長所もあれば弱点もある。
レーザースキャナは撮影の簡単さや、様々な用途で活用が期待されることが長所のひとつだが、一方で、雨天だったり、水溜まりが目立つ現場ではうまく撮影されない場合がある。 乱反射となってしまい、点群がうまく乗らないためだ。

真っ黒な新設のアスファルトも同じように、乱反射が原因で点群が抜けてしまう場合がある。
そのため、BLK360以外の機種での撮影にも挑戦しようと考えたのだ。

「迅速に=より少ない器械点」で撮影しなければならない理由

BLK360以外のレーザースキャナを検討している理由は他にもある。
それは、「器械点を少なくしたい」という思いだ。

道路のアスファルト補修工事は複数の業者が協力して行う。 

基本的に、この流れで補修工事が行われるが、同社が担当しているのは特に③のフローだ。
一般車を片側交互通行にして行われるこの工事には、何重ものプレッシャーが交錯する。
通過車両が点群の影を作ってしまうこと、その道路の利用者に約束されている時間までに工事を終わらせなければならないこと。
さらにタイミングを見計らって搬入される加熱されたアスファルトを冷ますことなく敷きならさなければならず、取付道路のすり付け作業に追われること。
自由度の高い現場ではなく、この緊迫した雰囲気の中で行われる施工は想像するだけでも、その難しさが分かるだろう。
この何重ものプレッシャーが交錯する中で3次元データを取得するためには、より少ない器械点でのデータ取得が肝となるのだ。

<RTC360>か<P40>か

より少ない器械点を実現するためには、長距離でも精度を保った状態での点群取得が必要だ。
また同時に、黒色のアスファルトをしっかり点群化させるスペックをもつことも重要となる。

BLK360を使用した現場では、多いときに50~60器械点での撮影を行ってきた。
器械点に比例し、データ容量は多くなる。すると、データ容量に比例し、取り込み時間は長くなる。
BLK360をフックに3次元測量へ取り組み、活用しているからこその課題だろう。

(有)ミナミ様が次のステップへと進むべく、神戸清光営業担当が提案したのがライカ社製レーザスキャナ「RTC360」と「P40」だ。

RTC360は中~長距離測定を得意とし、P40は長距離測定を得意とする。簡単なスペックは下の図を確認いただきたい。


(有)ミナミ様の課題をもとに以下のポイントに注目して、撮影・データの比較を行う。

結果は同図の緑色の箇所をご確認いただきたい。今回の条件下では、RTC360とP40どちらにも利点があることが分かる結果を得ることが出来た。
どちらの比較も「RTC360<P40」という結果になることを予想していたが、意外にも今回の条件下ではその予想は外れることとなった。
カタログだけでは読み取れないそれぞれの機種の個性がしっかりと見えた瞬間だった。

RTC360で撮影したデータの様子。

P40、RTC360比較2
P40、RTC比較1

P40で撮影したデータの様子。

P40、RTC360比較4
P40、RTC360比較3
P40、RTC360撮影

RTC360とP40で撮影を行う

なぜそこまで点群化にこだわるのか

服部氏が点群化にこだわる理由。
それはこれからアスファルト舗装に関わる後輩たちへの思いと、美しく仕事を仕上げるという思いだ。

<アスファルト舗装に携わる職人不足への危惧>
服部氏は「ICT施工はすべてをカバーするものではなく、キャッチフレーズの様に素人では行えない」と考える。
ベテランの職人たちはノウハウやスキルをしっかり時間を掛けて、場数を踏みながら習得してきた。
しかし業界を取り巻く人手不足の状況下、そして迫ってくるベテランの定年退職の中では従来の職人の育成方法が間に合わない。
また、ベテランの職人たちには「目」の問題もある。
既存の技術で仕上げる形だと、熟練した目視で行う工程がある。しかし、ベテランたちは目が衰えてきたと感じることがしばしばあるという。
——そこで点群を利用することで、経験の浅い職人でもベテランの職人でも、大きく質が異なることなく成果を残せると考えたのだ。
まだベテランの職人がいる間に問題点を見つけて解決していかなければならない。
この5~10年の間は若者、つまり後継者への橋渡しの期間である、と服部氏は言う。

<美しく仕事を仕上げる熱意>
服部氏は「自分がその商品(=施工)を買う意識」で作業を完遂する。
——「穴の開いた服は誰も買わない」「ウエストの合わないズボンは誰も買わない」
この言葉に自分の仕事を当てはめるのだ。

仕上げた仕事の結果が美しければ営業もいらない。「この施工を行ったところはどこ?」となるからだ。
しかし、どんなにベテランの職人でも施工に多少の癖が出るという。
前述の「へり」由来の凹凸をベテランから新人までが防ぐことができれば、均一で美しい仕事の成果を得ることが可能となる。 そのために服部氏は点群を選んだのだ。

カタログ記載の製品情報だけでは分からないことがある

ライカ社の世界最小スキャナ「BLK360」が登場したことで、3Dレーザースキャナ導入へのハードルが下がった。
「RTC360」「P40」も同じくライカ社製であり、「BLK360」の上位機種として紹介されることが多い。

アスファルト舗装工事での3Dスキャナ活用のためには、新設アスファルトの黒色の撮影や少ない器械点で撮影を行うことをクリアにすることが重要となるが、併せて課題となるのが、車両の通行だ。撮影中に車の渋滞や信号待ちが起こることによって、アスファルト面の必要データが撮れない場合がある。
しかし、今回「P40」のスペックや機能を実際に確認する中で、撮影ポーズ機能があることを知った。機種の選定材料には十分な要素だった。 実機の性能を実際に確認することで、ユーザーは安心して悩むことが出来る。

「実際に見てみなきゃだめだね」

——最後にポツリとそう呟いた服部氏が印象的だ。RTC360はBLK360に毛が生えたものだと思っていたが、これもまた印象が変わったという。 決して安価ではない器械を導入するユーザーにとっては、ホームページとカタログの情報がメインになる。 しかし、メーカーが発行しているカタログやホームページ記載の情報だけでは伝わらないことがまだまだある。これは、どのメーカーも共通している課題だろう。 その製品のユーザーたちに、そして導入を検討しているこれからのユーザたちに様々な情報を発信し続けなければならない。

ミナミ様

(有)ミナミ取締役の服部氏。


3Dを活用した測量のさらなる進歩のためには、ユーザーの熱意や探究心だけでなく、活用法や課題をユーザー同士でシェアできる機会が必要だ。
私たち神戸清光はユーザーの元に訪れる度にそれを痛感する。そして、それを提供していくことが私たちの使命であり課題でもあるのだ。 


 

(株)神戸清光 広報担当 松本葵

有限会社ミナミ
取締役 服部光二 様

【所在地】〒492-8410 愛知県稲沢市北島四丁目63番地
【電話番号】0587-50-6667
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