DJI 社 Mavic 3 Enterprise 精度検証

2022 年 11 月 21 日 株式会社神戸清光
テスト実施場所 兵庫県小野市 神戸清光/小野トレーニングセンター

 2022 年9 月 27 日に DJI 社から待望の Mavic 3 Enterprise(以下 M3E)および Mavic 3 Enterprise Thermal(以下 M3T)が発表された。

 「Mavic 3 Enterprise シリーズは、小型商用ドローンの業界標準を再定義します」と DJI 社は明言しており、加えて「メカニカルシャッター、56 倍ハイブリッドズーム、センチメートルレベルの精度を実現する RTK モジュールを備えた M3E は、マッピングとミッションの効率を新たな高みへと導きます。サーマルバージョンの M3T は、消防活動、救援救助、検査点検、および夜間作業に活躍します」と自社の Web サイトで述べている。 

 弊社では、一足早く M3E の RTK 精度を検証するために、従来モデルの Phantom 4 RTK(以下 P4R)と参考までに Matrice 300 RTK/P1:35mmレンズ搭載(以下 M300RTK/P1)との比較検証を実施した。
 ※M300RTK/P1 はM3E/P4R とはスペックが違いすぎるため、今回は参考までの比較とする。

まずM3EとP4R の主要スペックを以下に示す。M3E と P4R のボディ形状以外のスペックに類似する箇所が多いが、P4R が既に販売終了となっていることから、M3E が実質的にP4R の後継モデルと言ってよいかと思う。 

 M3E は、すでに発売されているコンシューマ向けモデルの Mavic 3 が機体のベースとなっており、ボディ形状やサイズ、搭載カメラは同じものが流用されていると思われる。ただし、Mavic 3 では搭載されていなかった自立飛行や RTK 測位機能が M3E には搭載されており、コントローラは専用のものとなり
(DJI RC Pro Enterprise)、実装されるアプリも Matrice シリーズでのみで設定されている「DJI Pilot 2」が使用できる。 
※M3E で RTK 機能を使用するためには別売りの RTK モジュールや固定局(D-RTK2)等の設備が必要です。

Mavic 3 EnterpriseとPhantom 4 RTKの主要スペック
Fig.2 M3E 本体と専用コントローラ

Fig.2  M3E 本体と専用コントローラ

Fig.3 M3E 本体正面(カメラが2 基搭載されているの が分かる)

Fig.3  M3E 本体正面
(カメラが2 基搭載されているのが分かる)

Fig.4 P4R 本体と専用コントローラ

Fig.4  P4R 本体と専用コントローラ

Fig.5 P4R 本体正面

Fig.5  P4R 本体正面

今回のテストでは、弊社小野トレーニングセンターに於いてD-RTK2 を用いたローカルRTK による
2D マッピングミッションを実施し、フィールド内に設置済の対空標識5 点の精度を比較することで行った。

マッピングミッションの設定条件は以下の通りとなる。
※D-RTK2 は、3 者共に同一の物で同一の基準点(既知点入力)で実施した。


・飛行高度=一定高度50m(GSD=M3E:1.34cm/pixel P4R:1.37cm/pixel)
・進行方向ラップ=80% サイドラップ=70%
・ミッション時飛行速度=M3E:5.0m/s P4R:3.9m/s(MAX)
・高度補正有


(参考比較用M300RTK/P1:35mm設定条件)
・飛行高度=一定高度50m(GSD=0.7cm/pixel)および107m(GSD=1.34cm/pixel)
・進行方向ラップ=80% サイドラップ=70%
・ミッション時飛行速度=5.0m/s
・高度補正有

 ※P1 は全て歪補正OFF にて実施

Fig.5 D-RTK2と対空標識

Fig.5  D-RTK2と対空標識

Fig.6 使用した基準点

Fig.6  使用した基準点

 M3E とP4R はスペックが似通っている事もあり、条件はほぼ同じとなる。ミッション時の飛行速度のみP4R は高度50m ではシャッターインターバルの関係で飛行速度は3.9m/s 以下に制限される。
 また、執筆時点(2022 年11 月30 日)で、歪補正(Dewarp)はP4R がミッション実施前に選択していたモードで実行されるのに対してM3E はミッション実行時に歪補正OFF で固定される仕様となっているので、M3E のミッションは全て歪補正OFF の状態での結果となる事を追記しておく。
 
 ※歪補正とはいわゆるカメラの内部パラメータによる補正の事で、この値が特に高さ精度に大きな影
響を及ぼすため、取り扱いには注意が必要となる。

Fig.7 M3Eマッピングミッション範囲

Fig.7 M3Eマッピングミッション範囲

Fig.8  P4Rマッピングミッション範囲

Fig.8  P4Rマッピングミッション範囲

 撮影した写真のSfM解析と対空標識の中心座標の抽出は、公平を期するために再現性のあるソフトウ
ェアの自動解析および自動抽出機能を用いて行い、当然ながら全点において標定は行わず、検証点とし
ての値を出力して基準点との比較を行った。

使用ソフトウェア
 agisoft  Metashape バージョン1.8.4

Fig.9  対空標識の配置

Fig.9  対空標識の配置

精度検証結果および考察


■TS-F1~F5=基準点座標値
■M3E_R0_1~5=M3E 入荷時の状態(歪パラメータ未入力)での結果
■M3E_R1_1~5=M3E 歪パラメータ入力後の結果
■P4R_ON_1~5=P4R 歪補正ON での結果
■P4R_OFF_1~5=P4R 歪補正OFF での結果
■P1H50_1~5=M300RTK/P1 飛行高度50m での結果
■P1H107_1~5=M300RTK/P1 飛行高度107m での結果

XY(NE)値は多少の誤差はあるものの、全結果共におおむね2~3cm に入っており、RTK 精度を考
慮すると妥当な結果となったのではないかと思う(XY に限るとはP1 が一番よく、P4R が若干悪い)。

 大きく差が出たのはZ(高さ)値で、一番良い結果となったのはP4R 歪補正ON での結果だった。
しかしながら、弊社ではこの結果は特に驚くことではなく、これまで行ってきたいくつかの精度検証において、高度50m 以下との条件は付くが高さ方向の精度が一番高いのは、P1 でもなくP4R 歪補正ON での結果だった。

 この結果について、P4R は歪パラメータの最適値が工場出荷時既に入力されていることが大きな要因と思われる。
 M3E ならびにP1 に関してはそれがなく、その場合はユーザー側にてパラメータを作成して入力する必要があるが、この歪パラメータの作成と入力は、ユーザー側で実施する場合は、実施方法によっては結果が良くも悪くもなる事から、十分な注意が必要である。

ただ、これは特にビギナーにとっては難しい作業になるし、本当に正確な値を作成するのは困難なことから可能であれば(カメラやレンズの交換が出来ないM3E に関しては特に)、P4R と同様に工場出荷時
に歪パラメータの最適値を入力した状態で出荷してもらえるとより多くのユーザーに多大な利益がもたら
されると考える。

 それでもM3E はP1 と同等の精度が期待できることは分かった。M3E は、国内においてはまだD-RTK2
を用いたローカルRTK にしか対応していないが、近々発売が予定されているNTRIP 用4G ドングルを用いたネットワークRTK でも同様の精度が期待できるか、機材が揃い次第改めて検証したいと思う。

Fig.10 検証結果一覧表

株式会社神戸清光 DJIインストラクター 藤井達也