映画『宝島』│2025年9月19日公開
株式会社Spade&Co.の小坂様がVFXチームを率いる!
神戸清光は特飲街「辺野古社交街」オープンセットのデータ計測を担当。
レーザースキャナの発展は止まらない。

2025年9月19日より全国公開された映画「宝島」。

戦後アメリカ統治下の沖縄を舞台にした、真藤順丈氏による直木賞小説「宝島」を完全映画化。

一般的な実写邦画の制作費が3億円程度とされる中、本作では総製作費が破格の25億円。
6年の構想を経て、コロナ媧による2度の撮影延期を乗り越え、遂に完成した本作。上映時間は圧巻の191分。
出演者は「映画で世界が変わるわけではないとは思っているが、この作品にはそれを覆す生命力があるんじゃないかなと信じている。」とコメント。

すべてのスケールが規格外となっている本作では、
株式会社Spade&Co.の代表取締役・小坂様がVFXスーパーバイザーとして VFXチームを率いた。

約2か月の時間をかけて制作されキービジュアルにも度々使用されている、特飲街「辺野古社交街(通称:アップルタウン)」オープンセットの
データ計測を神戸清光が担当させていただきました。


本記事では、その計測時の様子、
そして、データを利用した箇所の 実際の本編について記していきます。

映画『宝島』オフィシャルサイトはこちら

 (C)真藤順丈/講談社文庫 (C)映画「宝島」製作委員会

 (C)真藤順丈/講談社文庫 (C)映画「宝島」製作委員会

株式会社Spade&Co.(スペードアンドカンパニー)様 ロゴ

株式会社Spade&Co.(スペードアンドカンパニー)様は映画を中心にドラマやCM・PVなどのハイエンドなVFX(視覚効果)製作を提供されている企業。
150本を超える劇場用映画、30本を超えるTVドラマのVFX製作に携わる。

主な作品には、興行収入が150億円・観客動員1000万人を突破し、邦画実写1位への勢いが止まらない映画「国宝」、
邦画最高クラスの壮大なスケール感を実現した「キングダム」シリーズ、「ゴールデンカムイ」シリーズなど
日本を代表する大ヒット作品が並んでいます。

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特飲街「辺野古社交街」のオープンセット。

今回計測を行った、特飲街「辺野古社交街」のオープンセット。
1950~70年代の沖縄の街並みが見事に再現されています。

 看板やポスターなど、細部にわたって制作された渾身のセットです。

元からある建物を活かしながら、約2か月の歳月をかけて当時の街を再現されたそう。
看板やポスターなど、細部にわたって制作された渾身のセットです。

今回取得したデータの活用方法

特飲街「辺野古社交街」におけるオープンセットの計測では、提供データをベースに、お店のネオンや照明・看板部分をCGで追加されたそうです。
今回は、点群データ(E57形式)とメッシュデータ(OBJ形式)の両方を提供しました。

「点群データ」とは?

3次元空間にある物体や地形が、無数の「点」によって構成されたデータで、3次元の座標値 (x, y, z) と
色の情報 (R, G, B) を持っています。点の集まりなので、点と点のつながりはありません。
必要に応じてメッシュデータやサーフェスデータという3Dモデル化をして利用します。

今回取得した点群データ

今回取得した点群データです。
よく見ると、小さな点が集まっているのが分かります。

「メッシュデータ」とは?

点群データの「点」を結び、「面」で構成したものをメッシュデータといいます。
面には、三角形や四角形、多角形(ポリゴン)の種類があります。

点群データはそのままだと3Dモデルとして使用できないので、メッシュデータに変換します。
メッシュデータ(CADデータ)は現実の風景や建物をデジタル化し、リアルな背景データ作成に用いられます。

3Dモデル化を行うと、点群データの容量を圧縮できるメリットもあります。


今回データを変換する際に使用したソフトは、「Leica Cyclone 3DR」です。
Leica Cyclone 3DRは、点群データの地活用に必要な機能が豊富に盛り込まれた
オールインワンのソフトウェアです。
大量の点群データの一元管理を可能にし、他社メーカーのスキャナーのデータも取り込めます。

提出した編集後のメッシュデータです。 点群データと比べると、表面がなめらかに見えます。

提出した編集後のメッシュデータです。
点群データと比べると、表面がなめらかに見えます。

取得したデータの処理

点群データでは、データに映ってはいけない人やカラーコーン、櫓(撮影用のローリングタワー)など 丁寧にノイズ処理を行いました。また電線の点群データはリアリティがないため、一度全てを除去し、「Cyclone 3DR」でポリゴン化(メッシュ化)をしました。そして点群データのRGB情報から色付けを行った後で、電線をスプライン曲線にて追加しました。

点群データは複数の異なる計測機によってデータ取得したことから、
繋ぎ目部分のガタ付きや色情報の不自然さが極力目立たなくなるように配慮をしています。

点群データ 編集前 点群データ 電線除去

メッシュデータ メッシュデータ 電線(スプライン曲線)追加

本現場での使用機材

高所からもデータを取得するため、7.5mまで伸びる高所三脚(ルミカポール)などの三脚を使用して計測をしました。
今回は座標変換をするために、GNSS受信機のGCX3も使用しています。

使用機材1 NavVis VLX3

ここからは、実際の計測データの一部を掲載していきます。
まずは、3Dレーザースキャナー「NavVis VLX3」。

屋外の複雑な現場を高速かつ高品質に、詳細に3Dデータ化できます。

高性能なLiDARとSLAM処理により、エッジや細い部材のノイズを低減。
ハイレーザーレンジにより、外壁高所など遠くのデータまで高密度に再現されます。

また、手元のディスプレイで歩行軌跡やパノラマ写真撮影位置など計測状況をリアルタイムに
プレビュー確認ができるため、計測漏れの心配がありません。

使用機材1 NavVis VLX3

実際の「NavVis VLX3」による計測時の様子。

実際の「NavVis VLX3」による計測時の様子。

使用機材2 BLK360 G2

続いて使用したのは、地上型レーザースキャナー「BLK360 G2」。

ボタン1つで操作できる シンプルで軽量(850g)な高精度3Dレーザースキャナー。

写真のようにリアルで正確なスキャンデータをわずか20秒で取得できる優れもの。
前例のない、クラス最高のスキャンスピードです。

キャプチャされた各スキャンデータはその場で前回のスキャンと合成可能で、
データ整合に費やす時間も減らせます。

測量だけでなく、不動産、建築、エンジニア、建設、メディア、歴史的保存など
さまざまな分野で活用ができます。

使用機材2 BLK360 G2

実際の「BLK360 G2」による計測時の様子。 軽量のため、屋上への持ち運びも負担になりません。

実際の「BLK360 G2」による計測時の様子。
軽量のため、屋上への持ち運びも負担になりません。

使用機材3 RTC360

地上型レーザースキャナー「RTC360」。

RTC360は、毎秒 最大200万点のデータを取得する地上型レーザースキャナ。

高品質なカラー3次元点群データとHDR画像を含むスキャンデータを、2分未満で作成可能。
さらに、高速スキャンに長けているため、広範囲な場所の点群取得にも短時間で対応ができます。

VISというLeica社独自の技術が適用されていて、計測しながら自己位置の把握ができ、
この機能により、計測のし忘れを防ぐことも可能です。

使用機材3 RTC360

実際の「RTC360」による計測時の様子。 取ったデータをその場で確認しています。

実際の「RTC360」による計測時の様子。
取ったデータをその場で確認しています。

使用機材4 GCX3

最後に、GNSS受信機の「GCX3」。

世界最小で最軽量の SOKKIA製のGNSS受信機です。
高い測位性能と圧倒的な機動力を持ち、最新のマルチGNSSボードを搭載し、
全ての衛星に対応しています。

確信的なスリムデザインで、約440gという軽量化を実現。
アンテナ、受信機、メモリー、Bluetooth無線や10時間駆動のバッテリー内蔵など、
すべての機能が搭載されています。

今回はデータを座標変換するために、GCX3を使用しました。

使用機材4 GCX3

実際の「GCX3」による計測時の様子。

実際の「GCX3」による計測時の様子。

朝8時から約半日の時間をかけて、現場の計測していきます。

朝8時から約半日の時間をかけて、現場の計測していきます。

2024年2月27日・2月28日
特飲街「辺野古社交街」オープンセット

2024年2月27日・2月28日 特飲街「辺野古社交街」オープンセット

1.計測した点群データです。 映画の中盤に出てくる、物語の進行に重要な場所です。

1.計測した点群データです。
映画の中盤に出てくる、物語の進行に重要な場所です。

1.3Dメッシュへデータ化したものです。 全体的に表面が少しなめらかで柔らかくなっているのが分かります。

1.3Dメッシュへデータ化したものです。
全体的に表面が少しなめらかで柔らかくなっているのが分かります。

2.計測した点群データです。

2.計測した点群データです。

2.3Dメッシュへデータ化したものです。 3D化したことにより、編集や解析が容易になります。

2.3Dメッシュへデータ化したものです。
3D化したことにより、編集や解析が容易になります。

3.計測した点群データです。 現在はコンクリートやアスファルトになっている道路に土を敷き詰めるなど、こだわりが伺えます。

3.計測した点群データです。
現在はコンクリートやアスファルトになっている道路に土を敷き詰めるなど、こだわりが伺えます。

3.3Dメッシュへデータ化したものです。 屋根の上まで綺麗にデータが取得できています。

3.3Dメッシュへデータ化したものです。
屋根の上まで綺麗にデータが取得できています。

4.計測した点群データです。

4.計測した点群データです。

4.3Dメッシュへデータ化したものです。 点群数が少ないデータでも、色鮮やかなままデータ化できます。

4.3Dメッシュへデータ化したものです。
点群数が少ないデータでも、色鮮やかなままデータ化できます。

計測データ

計測データ

点群データ総数 
391,153,713点
(3億9千万点)

株式会社神戸清光
3DScanProducer Manager Supervisorよりコメント

町全体の3次元化にあたり、下記のように計画・計測をしました。

1.全体の形状の精度維持するためのGNSS測量機「GCX3」による基準点設置

2.その基準点をベースに、全域を取り逃しなくスキャンする「VLX3」によるコース作成

3.詳細部分をより高精度にスキャンするため、道路エリアで「RTC360」による計測(部分的に建物屋上で計測)

4.2階部分、屋根、看板等通常ではスキャンできないエリアの「BLK360G2」による長脚を利用した計測

撮影の合間の限られた時間の中での計測であったため、スラム型レーザースキャナー、固定型レーザースキャナー、各々の機材の得意分野を生かした計測を行うための計画立案が非常に重要でした。

また、出来上がりのカラーが不自然にならないよう、すべての機器のスキャンタイミングにも気を使って計測をしています。

3DScan Producer:走出 高充
 3DScan Manager: 岡本 勝彦
3DScan Supervisor: 大町 昌嗣

本編内の作業前/後のデータ

上記の点群データを活用し、株式会社Spade&Co.様が作成された本編内の
作業前/後の比較画像を掲載します。

1.作業前の様子。 撮影時、画像左奥のようにブルーシートが貼られている箇所があります。

1.作業前の様子。
撮影時、画像左奥のようにブルーシートが貼られている箇所があります。

1.作業後の様子。 奥行きの様子がCGで追加されることにより、更にスケールが大きくなり、迫力が増しています。

1.作業後の様子。
奥行きの様子がCGで追加されることにより、更にスケールが大きくなり、迫力が増しています。

2.作業前の様子。

2.作業前の様子。

2.作業後の様子。 当時の情景がよりリアルに映ります。

2.作業後の様子。
当時の情景がよりリアルに映ります。

3.作業前の様子。

3.作業前の様子。

3.作業後の様子。 車窓から見える後ろ景色にCGが追加されました。まったく違和感を感じない秀逸な仕上がりです。

3.作業後の様子。
車窓から見える後ろ景色にCGが追加されました。まったく違和感を感じない秀逸な仕上がりです。

4.作業前の様子。

4.作業前の様子。

4.作業後の様子。 一層と臨場感が増し、当時の街並みを直観的に感じられます。

4.作業後の様子。
一層と臨場感が増し、当時の街並みを直観的に感じられます。

株式会社Spade&Co. CG Supervisor
林 優佑 様よりコメント

 『宝島』では、当時の沖縄の空気感を忠実に再現するため、実際に沖縄に巨大なオープンセットが建てられ、その中で撮影が行われました。しかし、セットだけでは再現しきれない街並みの奥行きや遠景については、VFXで補う必要がありました。

 細かな路地や建物の奥行きまで正確に計測されたスキャンデータは、カメラマッチムーブやレイアウト、さらにCGエクステンションのベースとして非常に重要な役割を果たしています。

 これにより、実写とCGが複雑に入り組む夜景や群衆シーンにおいても、街並みの質感とスケール感を忠実に保ちつつ、観客に違和感を与えない映像表現を実現できました。

 こうした精度の高いスキャンデータが、CGを意識させない高品質でリアルなVFXを支えてくれたと感じています。

株式会社Spade&Co. 代表取締役 「宝島」VFXスーパーバイザー:小坂一順様  株式会社神戸清光   代表取締役 :走出高充 

まとめ

辺野古のアップルタウンに作ったオープンセットでは、看板やポスターなどは全部手書きだそうで、
細部まで”本物”にこだわり抜かれており 本作も圧巻で納得のクオリティでした。

辺野古のアップルタウンに作ったオープンセットでは、看板やポスターなどは全部手書きだそうで、 細部まで”本物”にこだわり抜かれており 本作も圧巻で納得のクオリティでした。

VFXの作業を行ったカット数は 最終的に615にも及び、約50人のスタッフが稼動。

VFXの作業を行ったカット数は 最終的に615にも及び、約50人のスタッフが稼動。

監督や脚本や原作、俳優部はもちろんですが、
音楽、撮影、照明、録音、美術、VFX製作など たくさんの人々の力で、努力で、
映像制作は成り立っていることが分かります。


3次元データは今回のような映像制作に使用される機会が増えてきましたが、他にも様々な用途があり、
土木や建築など わたしたちの生活の基盤となる重要なものもたくさんあります。

測量とは、生活をしていくにも 社会の発展にも必要不可欠な技術です。


今回ご紹介した製品の他にも最新機種まで、
デモンストレーションや商談などのご要望を承っております。
何かお困りのことがあればぜひ、お気軽に、当社HPよりお問い合わせください。

株式会社神戸清光 映像事業部 濱田・山元

記事監修:株式会社神戸清光 代表取締役社長 走出高充



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    株式会社Spade&Co. 様

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     TEL : 03-6427-3320(代表)